筑波大学ビッグバンド・クリニックレポート

近藤和彦ビッグバンド・クリニック by野中貿易株式会社
筑波大学 Neopolis BIGBAND
開催日 2022年10月31日(月)
筑波大学キャンパス内


第53回ヤマノ・ビッグバンド・ジャズコンテストで、シード権にあと一歩のバンドに贈られた「Cheer up (チアアップ) 賞」。副賞は、野中貿易株式会社様ご提供のサックスプレイヤー近藤和彦さんによるビッグバンド・クリニックです。Cheer up賞を受賞した「筑波大学 Neopolis BIGBAND」(以下:筑波ネオポリス)のバンドクリニックの模様をお届けします。筑波ネオポリスは、普段の練習を大学内の空き教室でおこなっているそうです。

教室に到着すると、メンバーが笑顔で迎え入れてくれました。我々が到着した直後に、講師を務めてくださる近藤さんが到着し、早々にクリニックがスタートしました。

まずは、カウント・ベイシーorchのナンバーから、サミー・ネスティコ作編曲の「Fancy Pants」を全体で演奏。バンドの演奏を、リズムを取りながら聴いている近藤さん。演奏が終わると、近藤さんから「演奏はまとまっている。雰囲気も出ている。」とお褒めの言葉がありました。素晴らしい演奏を聴かせてくれた彼らに、さらにもうワンランクアップさせるためのアドバイスが。

1つ目は、ジャズを演奏するにあたり、一人一人がジャズを勉強するということ。
さらに勉強するうえで特に重要なことは、「本物を聴くこと」「それを真似ること」だそうです。

これは、近藤さんがアメリカのジャズミュージシャン、フィル・ウッズから教わったことで、「憧れのミュージシャンがいるならば、そのミュージシャンが憧れたミュージシャンを勉強し、さらにその憧れたミュージシャンが憧れたミュージシャンを勉強し・・・」と、これを繰り返し遡っていくと、ジャズのルーツを学ぶことができるとのこと。演奏した「Fancy Pants」の場合、元の音源を聴くとシャッフルビートの曲であるため、さらに遡ったシャッフルビートの曲を聴くことが「ジャズを勉強すること」だとお話しいただきました。
シャッフルビートの曲を学ぶのにオススメなのは、‟アート・ブレイキー&ザ・ジャズ・メッセンジャーズ”。シャッフルを演奏している音源を聴いて曲のテーマやそれぞれのソロをコピーし、音源と一緒に演奏してみると大変勉強になるそうです。本記事をご覧の皆さまもぜひお試しください。

2つ目は、ジャズにおいての4分音符の重要性について。
ビッグバンドに限らずジャズを演奏するうえで最も重要なのは、「スウィングする」こと。

そのためには、まず演奏する全てのメンバーが自分の中に4分音符を強く持つことが大切。ドラムやベースに合わせるのではなく、それぞれが自分の中にメトロノームを持つようなイメージで、カウントでそのメトロノームを動かし、常にドラムやベースの人のメトロノームと自分のメトロノームが同じ動きをしているかを感じるようにする。一つのタイムを共有し、全員のメトロノームが同期したときにバンドはグルーヴして動き出します。

そしてジャズの拍の感じ方は2、4拍目が重要視されるが、まずは1、3拍目をしっかりとることが大切。1、3拍目がしっかりとれて、初めて2、4拍目が活きるそうです。それぞれの拍には役割があり、2、4拍目には重みがかかり、それが次の1、3拍目に進むためのエネルギーになる。人が歩くのと同じことからスウィングのベースをウォーキングというそうです。その上で8分音符を実際にスウィングさせるのだが、これはテンポや曲のスタイル、時代背景などによって、3連で感じるのかイーヴンに近くなるのかが変わる。それこそ感覚的な事なので機械にはできない。人間の作り出す4分音符、そのうえでテンポやスタイルによって微妙に8分音符のスウィングの仕方が異なるため、ジャズは人間にしかできない音楽なのだそうです。だから難しくて面白い、と。

デューク・エリントンの名曲「It Don’t Mean A Thing(If It Ain’t Got That Swing)」(スウィングしなけりゃ意味がない)というタイトル通り、ジャズはどんなに難しいことやかっこつけた事をやっていても、スウィングしなければ全く意味がない、とのことです。

ジャズバンドにおいてのドラムとベースは特に重要なパートであることをお話されていました。クリニック中、ドラムとベースが「Fancy Pants」のソロバックを4分音符でタイトにお互いに音を共有する練習をしていました。

ジャズを演奏するにあたり原曲を聴くことや理論的なことを学ぶだけではなく、各々がジャズについて深くルーツを探ることが必要であること、スウィングさせるためには4分音符が重要であることを優しく、丁寧に教えてくださいました。近藤さんのジャズに対する熱意も込められた、非常に内容の濃いクリニックでした。

近藤さん、筑波ネオポリスの皆さん、お疲れさまでした。

ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテスト実行委員会 記事/撮影:小野



【筑波大学 Neopolis BIGBAND 代表者コメント】

私たち筑波大学ジャズ楽団Neopolis BIGBANDは2015年に結成された筑波大学生で構成されるビッグバンドサークルです。まだ、他の学生バンドに比べて若いバンドで、YBBJCには今回の第53回で3回目の出場となりました。いずれの出場時もシード権を頂くことはできませんでしたが、今回初めて21位というあと一歩の順位となりネオポリスとして初受賞となるチアアップ賞をいただくことができました。

副賞として野中貿易株式会社様からサックスプレイヤー近藤和彦さんのレッスンの機会をいただきました。こうしてとても貴重な機会をいただけたこと、団員一同とても感謝しています。

今回の賞はシードまであと一歩という少し悔しい結果の賞ではありましたが、次の大会でのシード権獲得を目指すために下級生中心にメンバーが構成された曲を通してレッスンをしていただきました。シャッフルビートの曲のため、シャッフルのリズムの取り方やリズムセクション内やリズムセクション、ホーンセクション間でのビッグバンドのサウンドの作り方などビッグバンドの演奏の土台となる部分について詳しくお話ししていただきました。どのお話も演奏の中で重要になるものばかりで団にとってとても大きな学びとなりました。

レッスンではとても優しく気さくにお話ししてくださり、終盤では質問コーナーなどを設けて団員個人の質問に答えてくださりました。サックスを吹く上での表現の質問や団としての練習方法、ソロについての話など、どれも的確、かつ参考になる回答をいただきました。指導していただいた内容を参考にして練習を重ねていき、パワーアップしてYBBJCの舞台に戻りたいと思います。

今回、このような賞をいただけて音楽に触れることの楽しさやその奥深さなどを団員一同改めて感じることができました。普段からネオポリスを支えてくださる皆様やコロナ禍の厳しい状況の中大会を開催していただいた山野楽器の皆様、今回素敵なバンドクリニックをしていただいた近藤和彦様、そして、貴重な機会を与えてくださった野中貿易株式会社様に深く感謝いたします。本当にありがとうございます。

【近藤和彦プロフィール】

1964年山梨県出身。大学時、ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテストにて最優秀ソリスト賞を受賞。
在学中よりプロ活動を始め、宮間利之とニューハード、松岡直也、菊池ひみこ、渡辺貞夫、高橋達也、エリックミヤシロなどのグループに参加。熱帯ジャズ楽団では19年間リードアルトを務め2014年退団。
現在は小曽根真、渡辺貞夫、守屋純子などのビッグバンドに参加する他は、自己のいくつかのバンドをはじめ主にコンボで国内外で活動する。
スタジオミュージシャンとしても数多くのレコーディングに参加している。
フィル・ウッズ、ディック・オーツに師事。
昭和音楽大学ジャズコース非常勤講師。2009年リーダーアルバム『SUBSTANCE』をリリース。