【大会レポート】ビッグバンドへの熱き想いを結集させ、苦境を乗り越えてステージ開催を実現!~THE 53rd YAMANO BIG BAND JAZZ CONTEST~

寄稿:BIGBAND!編集部

コロナ禍の影響下、現在も感染への不安が続く中で徹底した対策と参加者・関係者の協力によって、第53回ヤマノ・ビッグバンド・ジャズ・コンテストが3年ぶりにステージへ帰ってきました。

会場でまず気づくのは、感染対策を担うスタッフの多さです。入場規制、検温、消毒はもちろん、演奏ブロック間の長時間休憩と総入れ替え、その間の会場消毒のほか、総合司会・国府弘子さんの呼びかけで声援は禁止し一本締めの拍手に代えるなど、その徹底ぶりには頭の下がる想いでした。

今回は喝采のない“寂しいヤマノ”になるのかと思いきや、始まったとたんに声援代わりの大きな拍手と、ステージに立てる喜びと興奮で、会場は一気にヒートアップ。学校の閉鎖や大人数で集まること自体に規制がかかる中、練習不足が懸念されていましたが、蓋を開けてみれば「レベルはものすごく向上している(審査員長 内堀 勝先生)」という驚くべき内容となりました。

全24バンドが出場し、3年ぶりのヤマノを制したのは、オリジナリティあふれる楽曲・演奏で「今年のヤマノでいちばん目立ちたかった」と攻めの姿勢全開の青山学院大学Royal Sounds Jazz Orchestra。初の最優秀賞を手にしました。「今までも良かったが今回ほどバランスが良く聞こえてきたのは初めて」と内堀先生も手放しの賛辞を送りました。

2位以下、毎年優勝争いに絡む上位常連校が続く中、第5位入賞という大躍進を遂げたのは東北大学 New Forest Jazz Orchestra。同校出身の音楽家・秩父英里氏作・編曲「The Sea-Seven Years Voyage-」を演奏。楽曲の世界観とサウンドの美しさに、講評する安ヵ川大樹先生が思わず言葉を詰まらせるシーンも。

そしてサドメルとヴァンガード・ジャズ・オーケストラの楽曲に特化し、近年じわじわと力を付け8位入賞を果たした神戸大学 KOBE Mussoc Jazz Orchestraも「本家に近づけるのか、それとも自分たちなりに変えてくのか(審査員 エリック・ミヤシロ先生)」、今後を期待させる演奏でした。

入賞は逃したものの、数多くの好演奏を聴くこともできました。甲南大学 Newport Swing Orchestraは、ピアノ、ベース、2管とメンバー4名の欠場にもかかわらず堂々の13位。華やかなアンサンブルを聴かせた立命館大学 R.U.Swingin’ Herd Jazz Ensembleなど、どちらのバンドもスウィングの魅力と底力を知らしめたといえるでしょう。

今回青学Royalを優勝へと導いた楽曲は、和仁将平氏によるアレンジ曲と池本茂貴氏のオリジナル楽曲。和仁氏は第48回のYBBJCに明治大学から自作曲で出場、池本氏は第47〜48回にLight Music Societyコンサートマスターとして出場した経歴の持ち主。YBBJCは過去にも大勢の音楽家を輩出してきましたが、この活躍のスピード感は、YBBJCがまたひとつ新たな時代へと突入したことを感じさせる出来事として印象的でした。

全24バンドが出場し、それぞれ熱い生の演奏を聴かせてくれました。

【受賞校】

第1位 最優秀賞

青山学院大学 Royal Sounds Jazz Orchestra

圧倒的な個性で会場を魅了。「いつも楽しみだが今回は本当に見事。強弱のバランスがよかった。ピアノもパーカッションのソロもよく考えられている。」と内堀先生絶賛。

第2位 優秀賞

明治大学 Big Sounds Society Orchestra

王道&硬派なスウィングで堂々の2位。「カッコよかった。ソリストもみな素晴らしい。音楽をつくるやり取りをリズム隊とともに楽しんで欲しい。」とエリック先生。

第3位 優秀賞

早稲田大学 ハイソサエティ・オーケストラ

ドラマチックな展開が観客を釘付けに。「びっくりした。編成、ソロとも、みんなが音楽している。次の場面へ移る時に自然に連れて行かれる。感動した。」と三木敏悟先生絶賛。

第4位 

Light Music Society

和太鼓も登場する凝った音づくり。「素晴らしいを通り越して凄い。ドラムとパーカッションの振り分け方などリズムセクションはエモーショナル全開。」と岩瀬立飛先生。

第5位 

東北大学 New Forest Jazz Orchestra

スケールの大きいサウンドで大躍進。「胸がいっぱいになった。心を打つ音楽。震災へのレクイエムの想いが、曲に詰まっていて感動しました。」と安ヵ川先生。

第6位 

東京工業大学 ロス・ガラチェロス

会場の拍手は最高潮。「素晴らしい演奏。ソリストのレベルが高い。リズム隊とホーンのバランスがいい。溢れてちぎれそうなグルーヴへの期待感がある。」と安ヵ川先生。

第7位 

京都大学 Dark Blue New Sounds Orchestra

珠玉のエリントンサウンド健在。「素晴らしい。言うことない。バンド全体が揃って、ダイナミックなところが出ている。リズム隊に管の音がしっかり乗っている。」と岩瀬先生。

第8位 

神戸大学 KOBE Mussoc Jazz Orchestra

強力なヴァンガード・サウンド。「今日のバンドの中でいちばん“ジャズ”していた。文句はなにもない。ホンモノより上手くやってるかも!?」とエリック先生絶賛。

第9位 

大阪大学 ザ・ニュー・ウェイヴ・ジャズ・オーケストラ

観客を巻き込むステージは健在。「歯切れの良さはダントツ。リズム隊の出している音がそれだけで素晴らしい。ホントの実力以上の自分たちを出している。」と本田雅人先生。

第10位 

法政大学 New Orange Swing Orchestra

「大トリにふさわしいビッグバンドサウンド。些細なところにも手が届いている。」と岩瀬先生。「ドラマー最高。一曲目のトランペットソロ、非常に光るものがあった。」と角田健一先生。

今年のコンテストでは予選はなく、出場を希望するバンドはすべて参加可能となり、全国から29バンドがエントリーしてくれましたが、残念ながら直前に5校が出場を辞退することに。

ヤマノに出たい。ステージに立って演奏したい。その気持ちだけで苦しい状況下、練習を重ねてきた学生たち。審査員の講評には、そうした彼らへのいたわりとリスペクトが詰まっていました。苦境の中で、双方の音楽に対する深い想いを、これほどまでに感じられた大会はかつてなかったのではないでしょうか。

「限られた時間のなかで頭を使い、考え、相当工夫して練習に臨んだと思います。来年こそ全員が参加できる大会ができれば」と審査員長の内堀先生。

「音楽って苦しいときのためにあるんだな」。

不測の事態に見舞われ続けた本大会において、会場の空気を読み、学生の気持ちに寄り添って名司会ぶりをみせた国府弘子さんがぽつりとつぶやいた言葉に、そこにいた誰もが共感したに違いありません。